つながりから⽣まれる、
集いの海辺未来へつなぐ、ひと。
「あらゆる人々に乗馬ライフを提供する」を企業理念に掲げる株式会社乗馬クラブクレインが、若林区にある「海岸公園馬術場」の指定管理者となったのは2005年のこと。会員を対象とした運営を続けていく中で発生した東日本大震災では施設全体が津波による被害を受け、19頭の馬が犠牲になったといいます。中口さんの担当馬もその1頭。今回は、悲しみに胸を痛めながらも前を向き、ファミリー層にも楽しんでいただける「公園」として新たな一歩を踏み出してから6年となる馬術場と震災を経て変わった馬への想いについて、お話を伺いました。
あの日、虹の橋を渡った
担当馬への恩返し
2018年に運営を再開した海岸公園馬術場の駐車場入口には、黒い御影石が来園者を出迎えるようにして置かれている。刻まれた文言は「東日本大震災で亡くなりし全ての馬の哀悼の碑」。東日本大震災で犠牲になった馬19頭を弔うための慰霊碑だ。現在の施設は、当時より7メートルほどかさ上げした土地に建てられている。
「避難していた私のところに連絡が来たのは震災から2日後のことでした。”馬が無事だ”という先輩からの知らせを受け、残る馬の救出に向かったのです」と当時を振り返る中口さんによれば、施設周辺は津波の浸水で近付くことができなかったため、近隣の小学校をベースキャンプに馬の捜索にあたったという。55頭いた馬のうち、最終的に36頭の無事が確認された。
「総勢100名を超える乗馬クラブクレインの社員たちが全国から応援に駆けつけてくれたときはとても心強かったです。みんなが大変な状況だったので『馬なんか探している場合じゃない』と厳しい言葉をいただくこともありましたが、スタッフが一丸となって捜索した甲斐あって、亡くなった馬を含め全頭見付け出すことができたときはホッとしました」
中口さんをはじめ、スタッフにとって馬は家族同然の存在。常に傍にいてくれる一方、馬は尊敬する人の言葉にしか従わない、シビアな一面も持っている。
中口さんがそのことに気付いたのは震災の後。担当馬のジョグを亡くしたショックと向き合うため、馬について改めて勉強していたときのことだ。「これまでは、できないことを全て馬のせいにしてきました。でも本当は私の方が馬に寄り添いきれていなかった」と涙をにじませる中口さん。馬のポテンシャルを引き出しきれなかったことへの後悔を抱きながらも、そのことに気付かせてくれたジョグに恩返しをするつもりで、今の担当馬たちと向き合っている。
誰もが気軽に馬と
触れ合える場所へ
中口さんが馬との向き合い方を変えたように、海岸公園馬術場も震災前からの運営方針をがらりと変えた。「震災前は会員様のように限られた方の利用が多い施設でした。ですが震災後は、企業理念にもある”あらゆる人々に乗馬ライフを提供する”をより具体化させるため、会員以外の方々にも来ていただけるよう、馬と触れ合える公園として整備したのです」。
もともと海岸公園馬術場は、2001年のみやぎ国体のために作られた施設を活用し、市民スポーツとしての乗馬の普及を目的に設置された経緯を持つ。しかし乗馬の一般的なイメージといえば「富裕層のたしなみ」。自分たちには縁遠いものだと感じる人も少なくない。そんなイメージを払拭し、馬をもっと身近に感じていただきたいというのがスタッフ全員の共通した願いだ。
「乗馬クラブとしての会員は現在650名程度で、他県から来る方もいらっしゃいます。週末になると見学したいというファミリー層の来園が多く、引き馬やエサやり体験を楽しんだり、日当たりの良いベンチに腰掛け海風を感じながら見学して行かれます」。もちろん、会員ではない初めての人でも、予約をすれば手ぶらで乗馬体験が楽しめる。子どもからお年寄りまで幅広い年齢層に対応したレッスンメニューが取り揃えられているのも、週末のお出かけ先として人気を高めつつある一つの理由だろう。
時代に即した
馬との付き合い方
乗馬に対するイメージは「富裕層のもの」というだけではない。動物愛護の観点から、馬に対する調教が「虐待」として見られてしまうこともある。「よくあるのはムチで叩く、という行為ですね。これは人間でいうと、にぎやかな教室で黒板を叩いて注目させる教員と同じこと。注意を調教師に向けさせることが目的なのですが、叩くのは可哀想、ひどい、という認識は近年特に増えてきているように感じます」。
馬を酷使したいと思って乱暴に扱うスタッフはいない。そもそも、そんなスタッフでは馬も心を開かないのだ。馬が粛々とスタッフに付き従い、表情や仕草で感情を伝えるということは、それだけスタッフとの間に信頼関係が結ばれているということでもある。そのことを広く知ってほしい、と中口さんは語る。
「時代とどう向き合い、共存しながら、馬術というものを普及していくかが現在の大きな課題です。はるか昔には生活に寄り添う存在だった馬も、現代の私たちの生活では絶対になくてはならないというわけではなくなってしまった。私たちスタッフにとって、人に尽くそうとしてくれる彼らとの関係を考えるきっかけをつくり、東部エリアの活気づくりの一助となることが、今後の大きな目標です」。
株式会社乗馬クラブクレイン
所長代行 中口 和哉さん
大阪府出身。2001年に株式会社乗馬クラブクレインに入社し、仙台大観音に隣接していた「乗馬クラブクレイン仙台」に配属された。2006年に海岸公園馬術場に異動。現在は所長代理として、施設全体の運営や広報活動に注力している。全国乗馬倶楽部振興協会が定める乗馬指導者の資格を持ち、レッスンを受け持つこともある。
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