Special 特集

つながりから生まれる、
集いの海辺未来へつなぐ、ひと。

きっかけとしての 海岸清掃活動 「深沼ビーチクリーン」
「フカヌマビーチクリーン」事務局 庄子 隆弘さん
Interview

かつて多くの仙台市民にとって身近な海水浴場だった、仙台市若林区荒浜の深沼海岸。しかし、2011年の東日本大震災以降しばらくは近づき難いイメージを持たれていました。そんな中、子どもたちが安心して遊び、人々が気軽に訪れることのできる砂浜を復活させようと2019年に「深沼ビーチクリーン」の活動がスタート。2024年の夏、海水浴場は14年ぶりに再開し、賑わいを取り戻しつつある荒浜。今回、「フカヌマビーチクリーン」事務局を務める庄子隆弘さんに、現在の活動内容や交流の広がり、今後の展望などについて伺いました。

荒浜の再生を願い
スタートした清掃活動

「荒浜地区は、海水浴シーズンこそ市街地に近い海として賑わっていましたが、普段は都市とは少し異なる独自の文化が残る地域でした。海から道路1本隔てた所に民家が並び、畑が広がり、自然がとても近くにありましたね。隣近所で野菜を分け合い、催し事があると地域住民が集う、そんな場所でした」と庄子さんは懐かしそうに振り返る。
庄子さんが活動に寄せるのは、「集う」ことへの想いだ。
震災直後、地域住民や有志の方々によって『荒浜再生を願う会』が立ち上げられた。
「『荒浜再生を願う会』が誰でも自由に参加できる“アラハマ リボーン”という清掃と交流をテーマとしたイベントを開催していたんです」。
砂浜に流れ着いたゴミだけでなく、津波によって運ばれた瓦礫や、埋もれた生活用品などが次々と発見されたという。それでも地道に清掃活動を続けることで、砂浜はかつての姿を少しずつ取り戻していった。
「2018年、『荒浜再生を願う会』は解散しました。しかしその後、清掃活動に参加したい方からの問合せが多く寄せられまして…。その流れで深沼ビーチクリーンの活動が始まった感じですね」。
市外からの参加者も少なくないという。深沼ビーチクリーンの魅力は何か。「自由度が高く、敷居が低いところかな」と庄子さん。活動時間内であれば何時でも受付可能で、終了も自分で決める。事前申込みの必要もないという。
「清掃活動の名のもとに荒浜に集い、時間を共有し思い思いに過ごす。時間いっぱい清掃している人もいれば、ごみを拾いながら海を眺めている人もいます。始まりも終わりも、過ごし方も参加する人の自由です」。

深沼ビーチクリーンが作る
新たな地域コミュニティ

深沼ビーチクリーンは、単なる清掃活動にとどまらず、人々が交流し、つながる場としての役割も果たしている。毎回の清掃活動には、仙台市内外から多くのボランティアが参加。震災後、地域住民のつながりが希薄になってしまった中で、この活動を通じて新たなコミュニティが形成。特に、親子連れや学生、企業の社会貢献活動の一環として参加する団体など、多様な人々が集まることで、世代や職業を超えた交流が生まれている。
「ビーチクリーンの後に、初めて会った人同士が話し込んでいるところもよく見かけますね。海岸清掃の場としてだけでなく、人と人とがつながる場所でもある」と庄子さんは語る。
また庄子さんは、まち全体を図書館に、地域の自然や人などを本に見立てて、訪れた人に荒浜の暮らしや文化に触れてもらうという考えのもと、深沼海岸近くの自宅跡地に「海辺の図書館」を立ち上げ、館長としても活動している。設置された本棚には自由に本を置いたり借りたりできる仕組みで、訪れた人が本を通じて荒浜と触れ合う機会を提供している。
図書館専属のカメラマンが撮影した写真を砂浜に展示する「海辺の写真展」を開催するなど、企画もさまざまだ。
「海で過ごす時間をより豊かにし、訪れる人々にとって心地よい場所にしたい」という思いから始まりました。本を持ち寄ることで、人と人とのつながりが生まれ、地域に新たな文化的価値を創出する場ともなれば良いなと思っています」。

人々が集い、つながり
継続性のある活動へ

清掃活動では、海岸に散乱するプラスチックごみやペットボトルの他、漁業関連の廃棄物なども多い。産業廃棄物に関しては清掃活動による回収は不可で、行政との連携が必要となる。
「ビーチクリーンは、海と向き合う時間でもある」と庄子さん。参加者が砂浜を歩きながらゴミを拾うことで、海の現状を肌で感じ、環境保全への意識が高まる可能性もある。親子での参加も増えており、子どもたちが環境問題に関心を持つきっかけにもなっているようだ。
「海洋ゴミ問題に取り組んでいる方が参加し、清掃活動の後にみんなに説明をしてくれたことがありました。地域の歴史や海の生態系について学ぶ機会となりましたね」。
今後の展開については、「活動が広がっていくのは良いのですが、活動自体を大きくしていくことは考えてない」と庄子さん。ビーチクリーンを入り口に、新しい出会いやつながりが自然と生まれる。「小学生から参加していた子が、高校生になっても参加してくれているんですよ」。肩肘張らずにゆるく継続できることはこの活動の魅力の一つでもある。
「深沼海岸が、ただの海辺ではなく、人が集まり、自然と触れ合い、学びの場となる場所であり続けてほしい」。庄子さんのこの願いのもと、深沼ビーチクリーンの活動はこれからも続いていく。

イベントのお知らせ

深沼ビーチクリーン

日時:毎月第2日曜日 10:30〜11:30 ※申込不要
集合場所:海岸公園センターハウス(仙台市若林区北官林30)

「フカヌマビーチクリーン」事務局
庄子 隆弘さん

2014年荒浜の自宅跡地に「海辺の図書館」を立ち上げ、2019年「フカヌマビーチクリーン」を設立、事務局を務める。

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