Special 特集

つながりから⽣まれる、
集いの海辺未来へつなぐ、ひと。

震災を経て歩む 地域の歴史を 次世代へつないでいく
なかの伝承の丘保存会 会長 下山 正夫さん
Interview

仙台市宮城野区蒲生地区、東日本大震災で甚大な被害を受け廃校になった旧中野小跡地に立つ「なかの伝承の丘」。2016年の完成以降、震災の記録を伝えるこの場を守り続けているのが「なかの伝承の丘保存会」だ。前身は中野小学校区の復興を考える地域団体の「中野復興委員会」であり、震災から13年が経った今も、会長の下山正夫さんを中心に地域住民や行政、地元企業と協力してさまざまな伝承活動を行っている。

中野小学校を中心に築いてきた
地域コミュニティの絆

東日本大震災で犠牲となった人々の慰霊のため、そして震災を後世に伝える象徴として建てられた「なかの伝承の丘」。丘の階段の途中には津波到達高が記されており、蒲生干潟に羽ばたくコアジサシを刻んだ慰霊塔「希望の鐘」や、和田、西原、蒲生、港から成る中野地区4地区の歴史を伝えるモニュメント、中野小学校閉校記念碑などが整備されている。本来このような慰霊のモニュメントを作るなら、津波被害を受けた沿岸部がふさわしいという意見が多く、当初の予定ではもう少し海のそばに建てられる計画だったという。しかし、2016年に中野小学校の閉校が決まったことで、地域住民から学校跡地を活用しようという声が上がった。

「震災前の中野小学校は、和田、西原、蒲生、港の4つの地区で暮らす人々にとってかけがえのない存在でした。子どもたちが自然に囲まれてのびのびと学ぶ場であり、学区運動会など地域のイベントが行われる場であり…、あらゆるまつりごとの中心として地域に愛されていました。4地区の町内会同士、世代間の交流が活発だったので、顔見知りも多く結束力がありましたね」
そう語るのは「なかの伝承の丘保存会」会長の下山さん。日頃から培ってきた住民の結束力は震災時にもいかんなく発揮され、まとまりを持って助け合い、中野小学校を中心に自主的な避難活動を行うことができたという。そんな、地域連携の象徴でもあった中野小学校の跡地に、「なかの伝承の丘」は完成した。その姿は震災前の日和山をイメージしており、標高も以前の日和山と同じ6.05mに設計されている。

人とのつながりが
今の活動を支えている

「なかの伝承の丘保存会」の主な活動内容は、年3回の敷地内の草刈りや、月2〜3回ほどのごみ拾い、日和山の駐車場の隣接地にある桜の木の維持管理などである。保存会の前身となるのが震災直後の2011年3⽉20⽇に発⾜した「中野⼩学校区災害対策委員会」(同年6⽉に「復興対策委員会」に改称)。中野地区のハード面での復興が一区切りついたタイミングで「なかの伝承の丘保存会」へと移行し、その3年後にメンバーを4人増やした。現在の保存会メンバーは20名だが、地元の海を利用するサーファーの方たちがボランティアで一緒に活動を支えてくれている。
「私は復興対策委員会にずっと携わってきて、保存会を発足するときには副会長を務めていましたが、前会長とバトンタッチする形で会長職に就きました。今は行政とのやりとりも私が行います。お願いしたいことはお願いする、言いにくいこともきちんと言う、というのを大事にしているので、行政の方には嫌われているかもしれませんが(笑)、お互い本音で語り合わないといい方向に進んでいかないですからね」と話す下山さん。活動において重視しているのは、「人とのつながり」だ。

「震災前、そして震災時もそうですが、やはり人のつながりは大切だと感じます。被災した中野地区に支援物資を届けてくれた団体の方々や、応援人員として来てくれた他県の行政職員の方々とは今でも付き合いが続いています。そうした人たちのつながりがこれからも続いて、どんどん広がって、私たちの活動を支える力になってくれると信じています。」

また、下山さんは保存会のメンバー同士のコミュニケーションも大切にしている。芋煮会や忘年会、暑気払いなど定期的に集まって交流の場を設けることで絆が深まる。普段はそれぞれが住んでいる地域の町内会や団体などに属しているメンバーが多いため、保存会で集まることを楽しみにしている人は多いという。

新たにオープンする
「蒲生なかの郷愁館」への想い

保存会にとって、今年は特別な年となる。2024年3月、「なかの伝承の丘」の東側に位置する「杜の都バイオマス発電所」内に、展示室「蒲生なかの郷愁館」がオープンするのだ。オープンに際し、下山さんら保存会をはじめ、様々な方たちが関わったこの施設では、何百年も前から続いてきた中野地区の歴史や生活、自然に関する展示を行い、震災前の地域の風景や、未来に向けて歩む中野地区を感じることができる。震災の被害や教訓を伝える「なかの伝承の丘」とは異なるコンセプトだ。
「長い中野地区の歴史の中で、あえて震災もひとつの出来事として捉えて表現する展示室を作りました。震災があって、住民たちの生活がこんなふうに変わって、今はこうして未来に進んでいるのだということを、次の世代に伝えていきたいんです。そのために、今年は勝負の年とも言えますね」と下山さんは語る。

現在は「蒲生なかの郷愁館」の存在をより多くの人に知ってもらい、継続して足を運んでもらえるような場所にするために、さまざまなPR方法を計画中だ。例えば他の施設と連携したパンフレットの設置や出張展示、行政と協力した小学校の校外学習の見学場所としての提供など、インタビュー中も下山さんからアイデアが次々と出てくる。実現に向けて実際に動き始めている企画もあるという。
今後は中野地区の歴史を次世代へ「つなぐ」新たなフェーズへ、「なかの伝承の丘保存会」として挑んでいく。

なかの伝承の丘保存会 会長
下山 正夫さん

震災直後から、中野・西原町内副会長や鶴巻1丁目東公園仮設住宅自治会長として活動。住民の生活再建に向けて奔走したほか、「なかの伝承の丘保存会」の前会長である大和田哲男さんとともに、前身となる「仙台市中野小学校区災害対策委員会」(のち復興対策委員会に改称)を発足。地区内にある4つの町内会の交流を通じて培ってきた人脈や地域の歴史・文化を守り、新たな時代へつなぐことに力を注いでいる。

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