Special 特集

つながりから⽣まれる、
集いの海辺未来へつなぐ、ひと。

東部エリアの玄関口、 コミュニケーションの 場としての役割
せんだい3.11メモリアル交流館館長 青野 裕慈さん
Interview

仙台市営地下鉄東西線 荒井駅に直結する「せんだい3.11メモリアル交流館」。そのミッションは、仙台東部エリアの玄関口という立地を生かし、東日本大震災と震災による津波被害を知り、学び、コミュニケーションを通じて紡ぎ出される知恵と教訓を後世に伝えていくことにあります。今回は、2023年4月から館長に就任した青野さんに、震災から13年が経った今だからこそ果たすべき交流館の役割についてお話を伺いました。

震災✕文化を伝える場
文化事業団としての役割

せんだい3.11メモリアル交流館がオープンしたのは2016年2月。当時青野さんは、財団法人仙台市市民文化事業団で総務課長を務めていた。「文化事業団が行う業務は本来、文化や芸術の振興に関するものがほとんどで、それまで私自身も、音楽や演劇イベントに関連する事業に携わっていました。財団全体では青葉区のせんだいメディアテークや太白区の地底の森ミュージアムといった文化施設の管理運営のノウハウはありましたが、東日本大震災の教訓を後世に伝える役割というのは、我々文化事業団にとって初めての試みだったんです」。

交流館は、被災した品々の展示などを行う震災伝承施設ではなく、震災をきっかけとしたコミュニケーションセンターとしての役割を期待されていた。そのために、震災を大きなテーマに掲げながら、文化事業団が得意とする文化・芸術をきっかけとして人々が気軽に集まることのできる場づくりを目指すことに。「これまでの事業を通して多くのアーティストの方々とつながりができていましたから、そうした人脈やノウハウを生かすことで、文化事業団らしい運営ができると考えたんです」。

地元住民との関わりを
大事にしたい

交流館の館長は青野さんで4代目となるが、館長が変わってもポリシーとして変わらず掲げ続けていることがある。それが「地元の方々を大事にする」こと。もちろん、交流館には他県や海外からの観光客が足を運ぶことも多く、そうした方々に震災の経験を語り、教訓として伝えていくことも大切なミッションになっている。しかし、それは地元住民の信頼があってこそ成り立つものだと、青野さんたちは考えている。「東部エリアは歴史が古く、江戸時代から続く先祖代々の土地で農業に携わってきたという方も少なくありません。そうした方々の気持ちを大切にし、居場所や立ち寄れる機会を提供することも私たちの重要な役目だと思っています」。
職員の中には、自身の被災体験を真に迫った語り口で聞かせてくれる地元出身者もいる。生かされたからこそ伝えなければならないという真摯な姿勢と人柄に、全国にファンがいるという交流館の名物語り部。「誰にでもできることじゃない」と、青野さんも心をうたれる。

一方、震災から13年が経過し変化を感じることもあるという。「一番大きな変化は企画の内容ですね。地域全体では震災当時を振り返るような内容だけでなく、沿岸部を盛り上げようというものが増えてきた。インバウンドを対象とした企画も目立つようになりました」。開館当初から活動の柱としてきた年に3回の企画展と解説付きの常設展、スタジオを使ったワークショップという大枠は変わらないものの、そこに携わるスタッフにも変化が現れた。「震災というとしんみりしてしまいがちですが、若いスタッフは真面目さを兼ね備えつつも明るく元気。そのせいか施設全体が明るくなったような気がします」と、青野さんはまぶしそうな面持ちで語ってくれた。

第2フェーズは
東部エリアの魅力発信

現在、仙台市では、東日本大震災からの復興を象徴する新たな施設整備を進めている。文化芸術の総合拠点となる「音楽ホール」と、災害文化の創造拠点としての「中心部震災メモリアル拠点」の複合施設だ。「新しい施設ができるからといって私たちの役割が大きく変わることはありません。ただし“局面”は変わっていくでしょう。我々が伝えなければならない震災の教訓は伝え続け、その中で人とのつながりをどう構築していくかを模索する段階です。そのために考えているのは、沿岸部の魅力を発信する拠点としての役割です」。沿岸部には、震災によって途絶えてしまった民俗芸能などもある。こうした芸能の復興こそ、交流館を管理する文化事業団としての腕の見せどころだ。

また、青野さんによれば、昨年から海浜エリアを周遊する期間限定のループバスが荒井駅発着で運行するなど、東部エリアは少しずつ活気づいてきているという。「この地区は田畑ばかりの平野で何もないというイメージを持たれる方も多いですが、その広大な空と地平の広がり自体がかえって魅力なのではないかと思います。ゆったりとした時間を過ごしたいときにはもってこいの場所」と語る青野さんは、志を同じくする7名のスタッフとともに、これからもこの地区の魅力を発信し続けていく。

※災害文化
仙台市では、災害は発生するものであるという認識に基づく考え方や行動のあり方、伝承の取組み、防災・減災の具体策など、災害を乗り越える知恵や術を持った社会文化を「災害文化」と定義しています。自然災害はいつ、どこで、どのように発生するか分かりません。そのような環境で暮らすためには、「不測の事態に対応できるスキル」を「文化」として定着させていく必要があると考え、災害文化の創造と定着に取組んでいます。

せんだい3.11メモリアル交流館館長
青野 裕慈さん

仙台市出身。1986年に財団法人仙台市市民文化事業団の設立と同時に入職。演劇・舞踊・音楽などの事業や、市民文化団体への助成事業などに従事してきた。総務課長、参事兼舞台芸術振興課長を歴任し、財団を定年退職後、2023年4月からせんだい3.11メモリアル交流館館長に就任。青野さんを含む総勢8名の職員で施設の運営に携わっている。

https://sendai311-memorial.jp/

ほかのインタビューを読む

  • せんだい3.11メモリアル交流館館長 青野 裕慈さん
    東部エリアの玄関口、 コミュニケーションの 場としての役割
  • なかの伝承の丘保存会 会長 下山 正夫さん
    震災を経て歩む 地域の歴史を 次世代へつないでいく
  • かわまちてらす閖上 常務取締役 株式会社 ⾶梅 代表取締役社⻑ 松野 ⽔緒さん
    閖上地区の⼈と まちを照らす 新たなランドマークとして
  • 貞⼭運河倶楽部 遠藤 源⼀郎さん
    歴史遺産・⾃然・アート。 伝えたい、 貞⼭運河の魅⼒
  • 仙台海⼿ネットワーク事務局⻑ (⼀社)荒井タウンマネジメント 理事・事務局⻑ 榊原 進さん
    沿岸エリアの 誘客・回遊を⽬指す プラットフォームとして