つながりから⽣まれる、
集いの海辺未来へつなぐ、ひと。
沿岸部に広がる農村地帯、仙台市若林区井土地区。東日本大震災前には103世帯が住んでいましたが、現在は12世帯となっています。そんな中、「ふるさとを価値あるものにしたい」と立ち上がった人たちのおかげで、井土地区は少しずつ前進。今回は、「井土まちづくり推進協議会」が2024年4月に設立するまでの経緯や活動の内容、今後の展望をメンバーの大友新さん、三浦聡一さん、外部サポーターの田澤紘子さんに伺いました。
ふるさとを負の遺産にしないため
元住民を巻き込んだまちづくりへ
井土地区の農業は、継続する意思のある住民が農事組合法人を立ち上げ、農地を取りまとめて管理することで再開。復興の道を模索していた。
「子どもたちの未来に負の遺産を残してはいけない」。この想いから、井土のまちづくりは本格的にスタートした。
「井土地区に農地を持つ人たちで構成される井土実行組合と、当時の住民による井土町内会の会長らが立ち上がり、井土地区のまちづくりについて話し合いを重ねました」。井土実行組合組合長の大友新さんは振り返る。
「土地を残して井土を離れた元住民たちも同じ想いでした」と話すのは、震災後、仙台市と宅地の利活用について交渉を続けてきた三浦聡一さんだ。三浦さんは、農地を持たない元住民もまちづくりに参加できるようにするため、2021年7月に「井土まちづくり推進委員会」を立ち上げ、委員長として活動してきた。
この設立の後押しをしたのが、当時仙台市市民文化事業団に勤務していた田澤紘子さんである。「2016年度から3年間、メモリアル交流館の職員を務めていたのですが、交流館のミッションの一つが被災した地域の再生に伴走していくというものでした。その一環として井土町内会のイベントなどのお手伝いもしていたのです」。
外部サポーターも積極的に参画できるよう、
推進委員会から推進協議会へ
田澤さんは、仙台市が2021年度から始めた「地域づくりパートナープロジェクト推進助成事業」への申請を提案した。「土地活用も町内会運営もままならない。この状況をどうにかしたいという想いがずっとありました」。
結果は2021年から3年連続で採択となり、最初に行ったのが井土地区の元・現住民の全世帯を対象としたアンケートだ。ふるさと井土が抱える問題の解決に向けて取り組むためのアンケートである。「2021年9月に配布して、回収率がなんと80%。住民の方々の関心の高さと、震災前のコミュニティがいかに良かったが伝わってきましたね」。
井土まちづくり推進委員会が設立し、アンケートを経て3年間、「井土プチマルシェ」をはじめ、様々なまちづくり活動を実施。
井土地区は、2023年より現代美術家の川俣正さんが、自身のプロジェクト「仙台インプログレス」の実施場所として、作品制作を展開。「住民や訪れる人たちがひと休みするためのパーゴラやテーブル、ベンチを制作しました。井土プチマルシェではベンチ制作のワークショップも行ってくれました」と大友さん。
川俣さんは2024年は8月4日から10日にかけて滞在制作を実施。パーゴラの敷地を過ごしやすくするための「テラス」と、月命日の「井土クリーン作戦」で必要な水場を確保するため「ポンプ式井戸」を設置した。
これら実践的な活動を踏まえ、次のステップへ進むための取り組みが、2024年4月の「井土まちづくり推進協議会」の設立である。「新旧住民が分け隔てなく参画できる団体をつくる」「より実践的な組織をつくる」「井土地区に興味を持つ第三者が積極的に関わることができる仕組みをつくる」ことを目標としている。最も特徴的なのは3番目で、これにより川俣さんや田澤さんのような外部サポーターが多く参画することで、新たなアクションにつながることが期待できる。
ソフトの活動を継続させながら
ハード面の実践的な取り組みへ
井土地区では現在、未利用となっている地域資源を活用していくプロジェクト「井土アレザレキャンパス」を積極的に展開している。「アレザレ」とは仙台弁で「あらいざらい」の意味。「今年度は、プロダクトデザイナーの小松大知さんに講師になっていただき、海辺のヨシ原に着目したプログラムを展開しています。ヨシは茅葺屋根の材料でもあり、昔は農閑期の貴重な収入源として重宝していたんですよ」と三浦さん。このヨシを使った「ヨシ原の見学&ヨシ刈り」「ランプシェードづくり」などが行われた。
他にも、この夏は仙台市天文台の移動式天体観測車を迎えて星空観望会を実施。田澤さんは「震災後、井土地区にとっては初めて夜間に開催したイベントでした。推進委員会を立ち上げた2021年の段階ではアイデアはあったものの、夜に人を集めて開催するところまでは至らなかったので、実現でき感慨深いです」と話す。
井土まちづくり推進協議会は、井土まちづくりレポート『9840842』を定期的に発行している。この数字は仙台市若林区井土の郵便番号だ。「見る人が見れば分かる記号のような名前をつけたいとずっと考えていたんです」と三浦さん。かつての井土住民の方々にも配布されている。
「ソフト面はイベントも含めてさまざまな活動を実施することができています。これからの課題はハード面、ふるさとの土地活用をどうしていくかを話し合っていかないと」。推進協議会は、より実践的に取り組むため「井土まちづくり計画」を策定。井土地区は住民主体によるまちづくりで、次のステップへと進め始めている。
井土まちづくり推進協議会
大友 新さん
東日本大震災後、「井土の移転問題を考える会」会長として活動後、農業法人井土生産組合所属。その後、井土実行組合組合長として活動。
三浦 聡一さん
東日本大震災後、「井土の移転問題を考える会」事務局長として仙台市との交渉に務める。その後、井土まちづくり推進委員会委員長として活動。
外部サポーター
田澤 紘子さん
仙台市市民文化事業団に勤務していた2016年からメモリアル交流館職員として井土の地域づくりに関わる。現在、東北芸術工科大学デザイン工学部企画構想学科専任講師。
「井土まちづくり情報局」
https://note.com/ido9840842/
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